認知症リスクを分析、50年にわたる久山町研究① [No.146]

こんにちは。Brain100 studioです。

50年にわたる認知症の追跡調査「久山町研究」、web記事などで読んだことがある方も多いと思います。

認知症予防に関わる身として気になっていたこの町を、桜の美しい先週末にようやく訪れることができました。博多駅から路線バスで50分、町の半分が山でまだ美しい自然も残り、大きなショッピングモールには周辺からマイカーで多くの人が集まっていました。

今回のテーマは、久山町研究(その①)です。

◾️国の予防策策定にも用いられる「久山町研究」

福岡県久山町(ひさやままち)が九州大学と共同で、地域住民を対象に行なっている生活習慣病の疫学調査「久山町研究」は、1961年から50年以上にわたって継続して研究されています。

始まりは当時の死因一位であった脳卒中の疫学調査で、実態や要因の解明に大いに貢献し予防策がとられたことで、日本は世界一の長寿国になったと評価されています。

※疫学調査:特定の集団を対象に病気の頻度や分布を調べ、発生原因や予防法を統計学的に調査するもの

認知症に関しては1985年に、世界初となる追跡調査が開始されました。世界で唯一、定点観測で認知症有病率の時代的推移を調べている久山町研究。2012年までに数年おきに5回、65歳以上の全住民を対象にした認知症の有病率調査が行われ、認知症予防への手がかりとして世界からも大いに注目を集めています。

2025年に認知症患者が700万人に達するという予測(厚生労働省、2015年発表の新オレンジプラン)もこの久山町研究から算出されました。

2024年3月までの直近9ヶ月にも認知症関連の調査が行われており、

  • 認知症および軽度認知障害(MCI)の有病率・年齢別有病率の算出
  • 国内の人口分布を用いて認知症およびMCIの罹患者数の推計
    の発表が待たれます。

久山町役場 手前の桜並木

◾️久山町研究の特徴

福岡市に隣接する久山町の人口はおよそ9,000人(1985年当時は7,500人)。住民の年齢や職業の分布が全国平均とほぼ同じであることから、平均的な日本人サンプル集団として研究対象に選ばれその特徴は現在も維持されています。

また年齢・職業だけでなく、栄養の摂取状況つまり1日あたりの総エネルギー摂取量や、タンパク質・脂質・炭水化物の摂取割合も全国平均ととても近く、まさに偏りのない日本人平均集団としてふさわしいものです。

これらの地域的な特徴に加え、精度の高い調査として認められている特徴として

  • 40歳以上の全住民が対象:5年ごとに追跡集団を加え、生活習慣の影響や危険因子などの変化を把握する(認知症調査の対象は65歳以上)
  • 研究スタッフによる健診・往診で正確な分析
  • 受診率80%(調査精度の高さ):認知症調査の受診率は92%
  • 世界に類を見ない剖検率75%(病理解剖で正確な死因調査)
  • 追跡率99%
    が挙げられます。

お隣の福岡市やその周辺ではこの50年間に人口が倍増していますが、久山町では全国平均の増加率を保つよう、都市計画によって新しい住宅をほとんど建てられないなど市街化調整をしており人口流入を抑えているとのことです。

桜など広葉が多く紅葉も楽しみな久山町。

◾️認知症の調査結果(2014年発表)

1985年、1992年、1998年、2005年、2012年に行われた認知症の有病率および生活習慣に関する調査結果の分析は大きな反響を呼びました。

認知症調査はどの年も2段階方式で行われました。第一段階のスクリーニング調査で認知症が疑われた人に対して医師による二次調査が行われ、認知症の有無そして認知症の病型が判定されました。

  1. 認知症、特にアルツハイマー型認知症の急増
    認知症の有病率は、1985年:6.7% → 2005年:12.5%、2012年:17.9% と時代とともに有意に増加が認められました。病型別にみると、脳血管性認知症の有病率は時代的変化がありませんでしたが、アルツハイマー型はおよそ30年で10倍近くまで増えていることがわかりました。
  2. 60歳以上の高齢者は2人に1人が認知症に
    認知症を発症する確率を推計したところ、60歳以上の高齢住民が認知症を発症する確率は55%という結果が得られました。

ショッキングな結果ですが、Brain100プログラムユーザーの皆さんは、運動や食事など生活習慣の改善で予防がかなり期待できることはよくご存知かと思います。

認知症の病型別有病率の時代的変化 久山町男女、65歳以上

◾️危険因子の検証

危険因子の検討では、中年期および老年期の高血圧は脳血管性認知症(VaD)発症の、糖尿病は主にアルツハイマー型認知症(AD)発症の有意な危険因子とされました。

高血圧はAD発症との関連性は認められませんでしたが、血圧値そのものではなく1日の中での変動(日間変動)が大きいと発症リスクが高くなることが、2017年に追加発表されています。血圧の変動も含めた厳格な高血圧管理が、将来の認知症予防に重要と考えられます。

糖尿病の人のAD発症リスクは通常の2.1倍、耐糖能異常(予備軍)の人は1.6倍。VaD発症リスクは1.8倍とされています。糖尿病予備軍は一般的な健診では分からず、空腹時と糖摂取後を調べる糖負荷試験が必要です。

糖尿病は、脳動脈硬化の進展に伴う大小血管障害、糖毒性による酸化ストレスの増大や終末糖化産物の形成、またインスリン代謝障害に伴うアミロイドβの排泄異常などさまざまな理由で脳の老化を促進してしまい、ADおよびVaDの発症に影響を与えると考えられています。

喫煙者は認知症になりやすいという分析も発表されています。中年期から老年期にかけて喫煙していた人を調査したところ、生涯にわたって非喫煙であった群と比べて、VaDの発症リスクは2.9倍、ADの発症リスクは約2.0倍に有意に上昇していることが示されました。

老年期になって禁煙した群は喫煙を続けた群よりは低い傾向であり、最近では海外の研究で「老年期の禁煙は考えられていたよりずっと効果が高い、喫煙したことがない人と同程度に下がる」という発表もあります。

次回メルマガでは久山町研究その②として、発症リスクを下げる防御因子項目について書きます。

◾️参考

[わが国における高齢者認知症の実態と対策: 久山町研究(平成26年)[(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/suisin_dai4/siryou7.pdf)

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