認知症のリスクを高める14の要因? [No.164]
こんにちは、Brain100 studioです。
毎年9/21は世界アルツハイマーデー、今年も各地の庁舎やランドマークが日本での認知症支援・啓蒙のシンボルカラーであるオレンジ色にライトアップされました。
今回のテーマは、認知症の発症リスクについて世界的な研究チームが調べた最新報告をご紹介します。
◾️最新の報告書ではリスク因子は14
世界で最も権威のある医学誌のひとつThe Lancetが主催する「ランセット認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会」が、2017年・2020年に続いて3報目となる報告書をこの夏発表しました。
27名の国際的専門家からなるランセット委員会は、認知症発症に関連する危険因子・治療とケアの知識と理解・認知症を予防し健康管理するために何をすべきかについて、世界中の研究を精査してきました。
英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神医学科のGill Livingston教授ら研究チームによるこの新しい報告書によると、幼少期から生涯にわたって継続する「14の危険因子」を改善することで、認知症のほぼ半数を予防または遅延できる可能性があるとしています。
この報告書は「Dementia prevention, intervention, and care 2024」として、The Lancetに7月31日掲載、同日開催されたアルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2024)での発表が注目を集めました。
◾️あらたに追加された2つの危険因子とは
報告書では、人生のステージを若年期(18歳未満)・中年期(18~65歳)・晩年期(66歳~)の3つに分け、危険因子が影響が持ち始める時期が示されています。中年期は2020年報告までは45歳~65歳からでしたが、今回延長されたようです。
2017年に発表された9つの危険因子:
若年期~:教育不足
中年期~:高血圧・聴覚障害・肥満
晩年期~:喫煙・うつ病・運動不足・糖尿病・社会的接触の少なさ
2020年に追加された3つの危険因子:
中年期~:過度の飲酒・外傷性脳損傷
晩年期~:大気汚染
2024年に追加された2つの危険因子:
中年期~:悪玉コレステロール(高LDLコレステロール)
晩年期~:未治療の視力低下
報告書では、認知症を発症する人の割合が最も高いリスク要因は、難聴と高LDLコレステロール(それぞれ7%)であり、それに幼少期の教育不足と晩年の社会的孤立(それぞれ5%)が続くと推定しています。 ※ 数値は人口寄与割合(その危険因子が排除された場合に有病率が低下する割合)
挙げられた危険因子は、予防と発症遅延に寄与する項目4つすなわち「血管損傷の減少・認知症病理の減少・ストレス/炎症の減少・認知予備能をつける」に分類されます。

◾️高所得国で患者数が減っている理由
報告書は、認知症のリスク要因に生涯にわたって取り組むことについて、政府と個人に対して意欲的な取り組みを呼びかけています。
2019年に5700万人だった世界の認知症患者数は、各国で高齢化が急速に進んでいることもあり、2050年までにほぼ3倍の1億5300万人に増加すると予想されています。 関連する世界的な医療コスト・社会コストは、毎年1兆ドルを超えると推定されています。
しかし、米国や英国を含む一部の高所得国では、特に社会経済的に恵まれた地域において、認知症の高齢者の割合が減少しています。
減少の理由はおそらく「生涯にわたる認知力・身体的な回復力の向上、医療の改善と生活習慣の変化による血管損傷の減少」によるものであり、できるだけ早期に予防的アプローチを実施することの重要性を示していると研究チームは述べています。
◾️リスクにさらされる期間を短く
しかし、ほとんどの国の認知症対策計画では具体的な提言を行っていません。Livingston教授は次のように述べています。
「報告書2024は、認知症のリスクを軽減するためにできること・すべきことが、まだたくさんあることを明らかにしています。行動を起こすのに早すぎるということはなく、また遅すぎるということもありません。人生のどの段階においても影響を与える機会があります。
リスクにさらされる期間が長ければ長いほどその影響は大きくなり、リスクに対して脆弱な人々にはより強く作用するという、より強力な証拠が得られました。
だからこそ、低・中所得国や社会経済的に不利な立場にある人々など、最も予防を必要としている人々に対して取り組みを強化することが不可欠なのです。 政府は、健康的なライフスタイルを誰もが可能な限り実現できるよう、リスクの不平等を減らさなければなりません」
◾️委員会から政府・個人へ10の提言
- すべての子供たちに質の高い教育を提供する、中年期には認知的に活発でいる。
- 難聴の人すべてに補聴器を入手可能にする、有害な騒音への曝露を軽減する。
- 40歳前後の中年期における高LDLコレステロールを検出して治療する。
- 視覚障害の早期検査と治療をすべての人に利用可能にする。
- うつ病を効果的に治療する。
- コンタクトスポーツや自転車ではヘルメットや頭部保護具を着用する。
- 社会との接触を増やすために、支援的な地域環境や住宅を優先する。
- 厳格な大気浄化政策により、大気汚染への曝露を減らす。
- 価格規制や購入最低年齢の引き上げ、禁煙措置など、喫煙削減策を拡大する。
- 販売される食品の砂糖や塩分含有量を減らす。
※曝露 環境や物質にさらされること
認知症のリスクを減らすことは、健康な生活を送れる期間を延ばすだけでなく、認知症を発症した人が不健康な状態にある期間を短縮することにもつながるという新たな証拠が示されていることを踏まえると、これらの行動は特に重要です。
「定期的な運動・禁煙・中年期における認知活動(正規の教育以外も含む)・過剰な飲酒の回避といった健康的なライフスタイルは、認知症リスクを低減するだけでなく、発症を遅らせる可能性もあります。
そのため、認知症を発症した場合でもその期間を短く抑えることができるでしょう」とLivingston教授は付け加えています。

◾️イングランドでは約40億ポンドのコスト削減が可能
The Lancetの専門誌Healthy Longevityに発表された、委員会と並行する別の研究では、主執筆者であるLivingston教授とNaaheed Mukadam博士(UCL精神医学)らが、英国を構成する4つの国のひとつイングランドを例に挙げ、これらの提言の一部を実施した場合の経済的影響をモデル化しました。
調査結果によると、有効性が証明されている介入策を国家レベルで実施することで、最大40億ポンド(約8千億円)のコスト削減が可能であることが示唆されています。
Mukadam博士は次のようにコメントしています。
「一次予防(塩分や糖分の摂取量削減など)を改善する集団レベルのアプローチや、肥満や高血圧などの症状に対する効果的な医療、喫煙や大気汚染の管理、そしてすべての子供たちが質の高い教育を受けられるようにすることを優先すれば、認知症の有病率や不平等性に対して大きな影響を与えるとともに、大幅なコスト削減も実現できるでしょう」
◾️因果関係の研究は続く
著者らは、認知症に関するエビデンスのほとんどは依然として高所得国から得られたものだが、現在では低・中所得国からもより多くの証拠が得られていると指摘しています。予防に関する推定値は、リスク要因と認知症との間に因果関係があることを前提としていますが、確かな証拠のあるリスク要因のみを慎重に含めているものの、一部の関連性は部分的な因果関係に過ぎない可能性があることも指摘しています。
例えば、中年期の絶え間ないうつ状態は発症と因果関係があるかもしれないが、晩年期のうつ状態は認知症が原因である可能性もあると指摘しています。
◾️研究報告
Dementia prevention, intervention, and care 2024

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