久山町研究② 発症リスクを下げる防御因子 [No.149]

こんにちは。Brain100 studioです。

博多駅から路線バスで50分、人口およそ9,000人のまだ自然も多く残る久山町(ひさやままち)が九州大学と共同で、50年以上にわたって地域住民を対象に行なっている生活習慣病の疫学調査「久山町研究」。

今回のテーマは久山町研究で報告された認知症の発症リスクを下げる防御因子のお話です。

◾️久山町住民は平均的な日本人集団サンプル

久山町研究の特徴としては

  • 住民の年齢や職業の分布、栄養摂取状況が全国平均とほぼ同じ「平均的な日本人サンプル集団」
  • 40歳以上の全住民を対象に、1961年から継続して研究
  • 死因一位であった脳卒中の疫学調査では、要因の解明に貢献し日本は世界一の長寿国に
  • 認知症の追跡調査は1985年に開始(対象は65歳以上)

というもので、さらに

  • 5年ごとに追跡集団を加え、生活習慣の影響や危険因子などの変化を把握
  • 受診率92%(調査精度の高さ)
  • 世界に類を見ない剖検率75%(病理解剖で正確な死因調査)
  • 追跡率99%
    など精度が非常に高いことで世界から注目を集めてきました。

※疫学調査:特定の集団を対象に病気の頻度や分布を調べ、発生原因や予防法を統計学的に調査するもの

久山町のショッピングセンター併設のガソリンスタンドには近隣から多くの客が集まる。

◾️おさらい:発症リスクを上げてしまう危険因子

2014年に発表された認知症の有病率および生活習慣に関する調査結果では、

  • 認知症、特にアルツハイマー型認知症の急増(30年で有病率が10倍以上に)
  • 60歳以上の高齢住民が認知症を発症する確率は55%
  • 老年期の高血圧は脳血管性認知症(VaD)発症の危険因子
  • 糖尿病はアルツハイマー型認知症(AD)発症の危険因子
  • 中年期から老年期にかけての喫煙は、VaDの発症リスクが2.9倍、ADの発症リスクが約2.0倍
    といったことが挙げられていました。

危険因子だけでなく、発症リスクを軽減できることが示唆された防御因子も発表されています。皆さんもよくご存知の、運動習慣・バランスの取れた食事・睡眠の質と時間です。

前回記事:認知症リスクを分析、50年にわたる久山町研究①

◾️防御因子:運動

海外の多くの疫学研究で、定期的な運動の習慣がリスクを下げることは報告されてきました。久山町研究では、運動習慣のあるグループは習慣のないグループに比べて、アルツハイマー型認知症の発症リスクは41%も低かったと報告されました。脳血管性認知症でも同様の結果が出ています。

運動は、アミロイドβタンパクの排泄を促進し発症リスクを減少させるという説、運動によって脳血管や心血管障害のリスク軽減がなされ認知症発症を予防するという説、運動習慣が身体的なフレイル(健康と要介護の間の虚弱状態)の予防につながりそれが心の健康を保つことや社会的孤立を防ぐことにつながることで結果として認知症発症を予防するといった説があります。

◾️防御因子:食事

地中海式食事法(オリーブオイル・野菜・豆・穀物・魚や鶏肉を中心とした食事)が認知症の発症リスクを低下させることは欧米での研究で報告されてきましたが、日本とは異なる食文化・食事法を取り入れることは高齢の方にはなかなか難しいですね。

過去記事:MIND式食事がアルツハイマー病につながる認知機能低下を防ぐ可能性

久山町の高齢住民の食習慣(日本の平均的な食事法に近い)から、食事が及ぼす影響も検討されました。

その結果、大豆製品・野菜・海藻類に加えて、乳製品を多く摂取し、糖質(米類)の摂取量が少ない食事パターンが予防に良いことがわかりました。この食事パターンでは果物・芋類・魚の摂取量が多く、酒の摂取量が少ない傾向があることも確認されています。

主食(米)に偏らず、野菜が豊富な日本食に乳製品を加えた食事が予防に有効と考えられます。

和食

◾️防御因子:睡眠

睡眠の質や睡眠時間の障害は、脳内のアミロイドβタンパクの蓄積と密接に関連すると報告されています。

認知症のない高齢住民を10年間追跡した結果、睡眠時間が5.0~6.9時間のグループと比べて認知症の発症リスクは

  • 5.0時間未満のグループ:2.6倍 高い
  • 8.0~9.9時間のグループ:1.6倍 高い
  • 10時間以上のグループ:2.2倍 高い
    という結果になりました。

アミロイドβタンパクは、睡眠中に排泄されることが知られています。

過去記事:脳脊髄液はどうやって毒素を洗い流すのか?

いかがだったでしょうか。認知症の発症リスクは生活習慣病の予防や生活習慣の改善によって軽減できることはどの研究でも示され続けています。改善すべき項目を見直し、脳健康の維持に役立ててください。

◾️参考

わが国における高齢者認知症の実態と対策: 久山町研究(平成26年)

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